2009/8/5

骨軟部腫瘍

整形外科領域の腫瘍は、骨・軟部腫瘍と呼ばれ、骨組織や筋肉、神経、血管、脂肪などの軟部組織より発生します。骨や軟部から発生する悪性腫瘍は肉腫(sarcoma)と呼ばれ、内臓などから発生する悪性腫瘍である上皮性腫瘍(がん)とは区別されています。肉腫は四肢や殿部、肩甲帯に発生することが多いですが、胸部や腹部などの体幹から発生することもあります。内臓のがんと比べ、肉腫は骨・筋肉・神経・血管・脂肪などさまざまな組織から発生するためにその種類が多く、また悪性度も多彩なために、病理組織診断が難しく、専門的な知識が必要になります。
当科では、平成4年に開設されて以来、経験豊富な病理医(藤田学園保健衛生大学医学部病理診断科の黒田 誠先生)、放射線科の画像診断医などの協力のもと、骨軟部腫瘍の診断治療を数多く行っています。

骨軟部腫瘍の診断

骨腫瘍や一部の軟部腫瘍(脂肪腫、血管腫、神経鞘腫、ガングリオンなど)では、単純X線検査やMRIなどの画像検査で、ある程度の診断が可能です。
しかし、腫瘍の良・悪性の鑑別を含めて、確定診断は生検(組織を採取)による病理組織学的診断でつけます。
生検には、針生検と切開生検の二つがあります。針生検は、外来で行うことが可能、少量ですが組織片を採取することが可能なので、良悪性の鑑別、肉腫と癌、リンパ腫の鑑別は可能で、早期に治療方針を決定できる利点があります。しかし、組織片が少量なので、確実に診断がつかないこともあります。切開生検は、切開して腫瘍の被膜を見て確実に組織を採取でき、確定診断に繋がる利点がありますが、手術室で行う必要があったり、腫瘍を周囲に播種させてしまう可能性があります。
最近は、特に骨腫瘍の場合、CTを撮影しながら、生検を行う方法を多用しています。この方法ですと、針先を確認できるので、重要組織を避けて針を進めることが可能で、針先が腫瘍内にあることを確認でき、侵襲が少ないという利点があります。

骨軟部悪性腫瘍(肉腫)の治療

骨軟部肉腫に対しては、腫瘍広範切除(周囲の健常組織とともに切除すること)、放射線治療、化学療法を柱とした集学的治療体系の下に治療を行います。その際、組織型や悪性度によって、異なった治療方法を選択します。以下に、代表的な肉腫の治療について述べます。

1. 低悪性度骨腫瘍(通常型軟骨肉腫、高分化型骨肉腫)   

腫瘍広範切除が主体。放射線感受性と化学療法感受性は低いので補助療法は行いません。

2. 骨肉腫

術前術後化学療法と腫瘍広範切除術の組み合わせからなる集学的治療体系が確立されています。当科では、名古屋大学整形外科腫瘍グループの関連施設ということもあり、イホマイド、アドリアシン、シスプラチン、メトトレキセートの4剤を組み合わせた名大プロトコールに準じて術前術後化学療法を行っています。四肢原発例では、約90%の患者さん切断ではなく患肢温存が可能であり、1994年から2006年までに治療した、初診時遠隔転移のない四肢発生骨肉腫20例の5年生存率は89.7%、5年無病生存率は85%と良好です。

3. Ewing肉腫/PNET(Ewing’s sarcoma family of tumors)

イホマイド、アドリアシン、ビンクリスチン、アクチノマイシンDを用いた化学療法と、局所療法としての手術療法および放射線療法を組み合わせた集学的治療を行っています。1994年から2006年までに治療した四肢・体幹9症例で、5年生存率は、初診時遠隔転移のない症例で66%、初診時遠隔転移のある症例で33%でした。

4. 軟部肉腫

軟部肉腫に対する治療の原則は、腫瘍周囲の健常組織を含めた広範切除縁以上の切除縁で原発巣を切除することが重要です。小児に好発する一部の小円形細胞肉腫を除くと化学療法の有効性は明らかではありませんが、滑膜肉腫では、イホマイドとアドリアシンを用いた化学療法を併用し治療を行っています。また、円形細胞型脂肪肉腫や脱分化型脂肪肉腫、10cmを超えるような悪性線維性組織球腫(MFH)、初診時遠隔転移のある軟部肉腫、神経血管束に近接した軟部肉腫では、化学療法(イホマイド・アドリアシン)を併用して治療することがあります。1994年から2008年までに治療した初診時遠隔転移のない四肢体幹MFH34例の治療成績は、5年生存率が90.8%、5年無病生存率が78.1%でした。

転移性骨腫瘍(がん骨転移)の治療

すべての悪性腫瘍は骨転移の可能性があります。骨転移を来たすと、疼痛や神経症状をきたすことがあります。特に脊椎の転移で麻痺が生じたり、大腿骨の転移で病的骨折を起したりすると、quality of life(QOL)が著しく低下します。疼痛や麻痺の予防、病的骨折の予防には放射線療法が有用な場合が多いので、放射線科の放射線治療医と相談しながら、放射線治療を行っています。
しかし、麻痺が進行する例や、特に下肢骨で病的骨折を起してしまった例や切迫骨折例では、早期の離床を目指し、手術療法も積極的に行っています。手術療法は、内固定に骨セメントで補強する方法を基本として、場合によっては、腫瘍部分を大きく切除し、人工材料で置換してしまう方法など、骨破壊の程度や全身状態などを考慮し、再建方法を選択し行っています。

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