2012/10/10

葡萄の恵み クレタの自然

ギリシャ食のリポート

現在私の住むクレタ島は、ギリシャのなかでもカタツムリを食べる稀な地域です。ユネスコの無形文化遺産ともなっている地中海ダイエットは、南イタリアやギリシャ、特にクレタ島の伝統的食事法を指しているそうです。地中海式に欠かせないのがオリーブオイルですが、こちらに来てからは1.5リットルの瓶を1か月で使い切ってしまうこともあります。油というよりも、もはや日本でいう醤油やお出汁の感覚。もちろん、オリーブオイルはクレタ産。しかも大家さんの敷地で採れたオリーブからできたものです。

また葡萄畑からの恵みは、先述のカタツムリ、葡萄の葉っぱ、実、果汁から造るワインやチクディア(蒸留酒)、ワインビネガー等、クレタの毎日の食卓に欠かせないものばかり。

新緑の季節には、葡萄の若葉を摘んで食べます。主にドルマダキ(葡萄の葉でハーブライス等のフィリングを包んだ料理)にしたり、刻んで他の料理に使用したり。独特の香りがあり、初夏を感じます。葡萄の葉が美味しいとは、ギリシャに来て知りました。

カタツムリ
カタツムリ
オリーブオイル漬けのウニ
オリーブオイル漬けのウニ
ドルマタギ
ドルマタギ

夏以降は葡萄が美味しい季節。現在住んでいる家の敷地にも、大家さんが植えた数種類の葡萄が実ります。どれも甘くてジューシー。秋に入ると全ての葡萄を収穫し、ワインにするのです。ワインにする葡萄は食べられるんだ! とこれもまた発見でした。

秋には一家の男性陣が葡萄を収穫し、コンクリートでできた浅いお風呂のような場所に集めます。翌日、一家総出で葡萄を絞ります。絞り方は、ズバリ、足で踏みます!「浅いお風呂」に入っている葡萄を足踏みすると、果汁がパイプを通って、その先にスタンバイしているザルを通り(種や皮を濾す)、その先の樽に果汁だけが流れ込みます。大家さんご夫婦は、長靴を履いて踏んでいましたが、私は長靴がなく、素足で踏みました。大家さんのグレゴリーから「裸足が一番。足が赤くなってしまうから長靴を履くだけさ」と聞いたからです。足踏み開始後、程なくしてズキッと何かが足に刺さりました。クレタは蜂蜜も豊富ですが、要するに蜂も多い。蜂たちが葡萄の甘さに引き寄せられてくるのです。蜂に刺された分、それだけワインに愛着が湧きます。

レツィーナで有名なギリシャワインですが、グレゴリーの作り方は葡萄の絞り汁を発酵させ、途中で青みがかった松ボックリを潰し入れて香りをつけます。オレンジがかったロゼワイン。今までに飲んだことのない、ユニークで美味しいワイン。ドライな酸味とほんのりした甘さが、クレタ料理に本当に合うのです。

そして、忘れてはいけないのがクレタ島のお酒、チクディア(ラキ)です。葡萄の搾りかすを発酵させて造る蒸留酒。イタリアでいうグラッパです。葡萄の香りがほんのりする度数の強いお酒。クレタのタベルナでは必ずと言っていいほど、食後にスウィーツやフルーツと一緒に冷えたボトルで供されます。消化を助けるそうです。チクディアがサービスで出てくるのはタベルナとばかり思っていましたが、クレタの市役所で結婚をした際も、このお酒が振る舞われました。クレタのホスピタリティを象徴するお酒です。

葡萄の搾りかすが発酵したら、グレゴリーは町の蒸留所に持ち込んでチクディアを造っています。ワインもチクディアも、日常の野菜も自家製。鶏を飼い、卵も、時々食べる鶏肉も自給自足。ウサギも飼っていてたまに食用に。庭には葡萄とオリーブの木はもちろん、レモン、イチジク、杏、枇杷、蜜柑、ザクロといろいろな果物が実を結びます。昔ながらの暮らし方で、溢れるばかりの自然の恵みを享受しています。

グレゴリーの家では葡萄の木を中心に季節がめぐります。若葉の季節、実の季節、収穫、ワイン仕込みの季節、剪定の季節。作れるものは自ら作り、なるべくその土地のものを食べるのがクレタ流の食事法であり、生き方であることを、大家さんの姿から教えられます。5000年の食文化を持つクレタですが、今もあまり変わることなくしっかり受け継がれており、私は豊かな自然の恵みに息を飲むのです。

青木 瑠衣子(あおき るいこ)
メーカーの海外営業でタイ・ベトナム・中国の担当を経て、出張のない商社の派遣勤務に転身。同時にベリーダンス講師としてレストランショーとお教室を展開。縁あって、現在ギリシャ・クレタ島在住。趣味は踊りと読書。


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